不動産関連のコラム

相続不動産を売却するときのリスク① ─ 序章

不動産は有効な資産ですが、往々にして負の資産になることもあります。遠方の実家を空き家の状態で相続した人が、売却したくても買い手がつかず、維持費や税金の負担で悩まれている話をよく聞きます。お金で済むことであればまだましで、慣れない不動産取引で刑事罰を受けることもあります。知らなかったでは済まされません。

それでは本記事から数回に分けて、相続不動産にまつわるリスクについてご紹介します。

【01】土地を分割して売却したら刑事罰!?

土地を分筆して売却するとき、正しい手順を踏まないと罪に問われることがあるので十分に注意しましょう。「分筆(ぶんぴつ)」とは、土地を複数に分けて登記する手続きのことです。あまり耳にしない言葉ですが、土地は一筆、二筆と数えるため、一筆の土地を複数に分ける「分筆」は、読んで字のごとくです。分筆を行うには、土地の所有者が登記所に土地分筆登記を申請する必要があり、手続きは1~3か月程度要します。なお、反対に複数の土地を一筆にまとまるときは「合筆(ごうひつ/がっぴつ)」といいます。

罪になるのは何故?

たとえ自分の土地であっても、宅建業の免許を持っていない一般人が分筆して売却すると、宅地建物取引業法の違反行為になる可能性があります。しかもこの違反は刑事罰扱いになります。
もっと詳細にいうと、宅建業の免許がないとやってはいけない「複数の売買(取引の反復継続性)」があるとみなされる可能性があります。不特定多数に対する販売である場合は、たとえ一回の取引であっても、分筆後に売却という流れが事業性が高く反復継続的な取引に該当すると判断される可能性が高くなります。
必ずしも刑事罰になるわけでなく、グレーゾーンな行為ではありますが、可能性がある以上、避けたほうが賢明です。土地を分筆して売却したい場合は、何はともあれ不動産会社に相談してください。

【02】使わなくなった「生産緑地」が負の資産に!

2つ目は、「生産緑地(せいさんりょくち)」についてです。生産緑地とは市街化区域内にある農地のことで、普通の土地とは異なり売却時に特定の手続きを経る必要があります。

生産緑地の売却は難しい?

生産緑地に指定されると税制上の優遇措置が適用できるメリットがありますが、30年間は農地・緑地として土地を維持することが義務付けられます。期間中の売却や用途変更は原則として出来ません。当然、宅地としての売却も原則不可です。

売却をするためには、市町村の農業委員会に生産緑地の指定解除の申請をする必要がありますが、それだけでは一般の土地のように売買活動は認められません。
まずは地方公共団体に買取の申請を行う必要があります。もし地方公共団体で買取先が見つからない場合は、次のステップとして、ほかの農林漁業者へのあっせんが行われます。そこでも買取先が見つからなければ、ようやく生産緑地としての指定が解除され、宅地への転用や建築物の新築が可能となります。このように生産緑地の指定解除の手続きは非常に手間がかかるため、多くの不動産会社が敬遠する傾向にあります。

【生産緑地地区の買取申出の流れ(横浜市)】

【出典:生産緑地地区の買取申出の流れ(横浜市のWEBサイト)


生産緑地といえば「2022年問題」

多くの生産緑地が1992年に指定されたので、指定解除される30年後の2022年に農地が大量に市場供給され、地価の暴落を招くのではないかと懸念されていました。予想される問題が大きかったため、生産緑地としての適用を10年間延長できる「特定生産緑地制度」が導入されました。その効果がみられて「2022年問題」は大ごとにはなりませんでしたが、本質的な問題は先延ばしされたようにも思えます。

生産緑地を相続予定の人は、上記のようなリスクがあることを知っておいてください。

【03】共有持分物件がかかえる複雑なリスク

3つ目は「共有持分物件」についてです。所有者が複数いる不動産のことを「共有名義(共同名義)の不動産」という言い方をしますが、その各共有者がもつ所有権の割合のことを「共有持分」と言います。
例えば、不動産をご夫婦の共有名義で購入する場合、半分ずつの所有であれば、共有持分は「2分の1」ずつになります。
また、3人の子がひとつの土地を相続する場合、遺言書が無いケースですと、各相続人の共有持分は「3分の1」になるのが一般的です。しかし現実は複雑で、もとから共有名義だった不動産を相続することも少なくありません。もとからの共有者との関係も考えなければならないため、自分の「持ち分」の取り扱い方に注意が必要になります。

「共有持分」は売却できるが・・・

共有持分物件は、ひとりの判断では原則として売却できません。不動産はお金のように明確に分けることができず、部分的に売却することが困難です。たとえば戸建て住宅などは全体で一つ資産として成り立っており、分割しての売却は物理的に困難なため、共有者全員の同意を得る必要があります。

ただし、建物がない土地のみの状態であれば分割が難しくないので、例外的に自分の「持ち分」だけを売却できます。しかしこのケースでの売却は簡単ではありません。持ち分のみの売却は買い手が少なく、売却価格が安くなるというデメリットがあります。売れたとしても、その購入者の行動によっては、ほかの共有者とトラブルになるリスクも考えられます。
トラブルを避けるためにも、まずは、共有者同士での話し合いをお勧めします。「ほかの共有者に自分の持分を買い取ってもらう」とか「相続の場合なら換価分割(かんかぶんかつ)を利用する」などの方法があります。共有者同士の話し合いが難しいなら不動産会社に事前相談するなどして、慎重に進めた方がよろしいです。

【関連記事: 換価分割 ─ 不動産は分割しにくい財産

【04】底地(借地権付き土地)を手放す方法

所有者であっても、自由に利用・売却できない土地があります。「底地(そこち)」と呼ばれる借地権が付いている土地です。地主と土地を借りている人(借地権者)の関係が良好であれば問題にならないですが、「地代・権利関連のトラブル」や「相続税の負担」などを理由に、手放したがっている地主さんがいらっしゃいます。底地はその性質上、市場に出ることは稀ですが、売却方法はいくつかあります。

① 借地権の期間満了まで待つ

借地権の期間満了まで待つ方法です。借地権がなくなれば、通常の土地と同じ扱いができるようになります。

② 期間満了前に売却

期間満了前に売却する方法で、借地権者の許可を得たうえで、賃貸借契約の解除手続きをおこなう方法です。

③ 借地権者に売却する

借地権者に売却する方法です。底地はその売却後の取り扱いづらさから売却価格が低くなりがちですが、相手が借地権者ならその問題も解消されるので(結果的に完全所有権※になるので)買い手としては理想的でしょう。

※借地権者との関係で一定の制約を受ける底地の所有権を「不完全所有権」。制約を受けない通常の所有権を「完全所有権」といいます。

借地権者側からしても、毎月地代を支払いながら土地を利用しているので買い取れるメリットは大きく、適正価格で買い取ってもらえる可能性も高いと思います。ただ、借地権者に底地を売却できるのは、購入意欲が高く、まとまった資金がある場合に限られます。


なお、「借地権を売却したいが地主が承諾してくれない」など、借地権者からのお悩みを耳にすることもあり、リスクの複雑さを感じざるを得ません。底地や借地権については、下記の関連記事で詳しく解説します。ご参考にしてみてください。

【関連記事: 相続不動産を売却するときのリスク② ─ 底地と借地権

まとめ

高齢化が進む昨今、不動産相続は増えています。もし相続した不動産を利用せず、空き家や更地の状態で放置するのであれば、売却したほうが望ましいでしょう。しかし、相続不動産を売却する場合、今回ご紹介した事例のようなリスクがある点を、よく理解しておく必要があります。

今回ご紹介した土地以外にも、「市街化調整区域の土地」や「工場跡地(形質変更時要届出区域)」など、さまざまなリスクの可能性がある土地はまだあります。これらの土地の対処方法についても、追々ご紹介しますのでご期待ください。

 

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