不動産関連のコラム

相続不動産を売却するときのリスク③ ─ 市街化調整区域

あなたが購入を検討している土地、または相続予定の土地は、もしかして建物を建築できない「市街化調整区域」にありませんか? 承知のうえでの購入/相続でしたらよいのですが、もしそうでないなら、本記事を読んで「市街化調整区域」のことを知ってから検討しても遅くないと思います。

【01】建築できない市街化調整区域とは?

都市計画法によって都市は、「住宅地や事業・商売をするための区域(市街化区域)」と「農地や緑地を保全するための区域(市街化調整区域)」に分けられます。

今回の主旨である市街化調整区域では、原則として住宅や商業施設などの建物を建築することができません。住居ではない、物置やコンテナなどの簡易な建物であっても違反建築物になります。
公共施設など一定の条件を満たして、開発許可を得ることで建築できるケースもありますが、許可を得るためには多くの手続きを経る必要があります。活用しにくい土地であり、インフラも整っていないため、一般的に資産価値は低く、売却価格も安くなりがちです。

ちなみに、市街化区域は「すでに市街地を形成している区域 及び おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」と定められていて、比較的自由に開発(建築)ができます。


【出典:国土交通省関東地方整備局のWEBサイトより


【02】現況有姿分譲地にご注意

昨今、市街化調整区域に関連するトラブルが増えています。その中でも「現況有姿分譲地(げんきょうゆうしぶんじょうち)」の事案は、自治体からの注意喚起をよく聞くようになりました。

現況有姿分譲地とは・・・

山林や原野を造成工事しないまま分譲する土地のことです。労力も金銭的な負担も少ない状態で売却するので、売主にとっては都合よく思えますが、売りづらい土地であることには変わりありません。不確かな情報や虚偽の情報で購入を誘導すれば、後々トラブルに発展しかねませんので、そのような行動はやめましょう。

横浜市の事例ですが、市街化調整区域の土地に道路などの簡易的な整備を行ったうえで「現況有姿分譲」として販売されたことがありました。簡易的な整備が行われていたので、建築できると誤解して購入した人がいたようですが、市街化調整区域である以上、原則として建築することはできません。

市街化調整区域の現況有姿分譲地には、売主も買主も十分に注意しましょう。

【参考:市街化調整区域での建築にご注意を!(横浜市のWEBサイトより)


宅地と見せかけて販売する業者にもご注意!

悪質業者が、市街化調整区域の土地を宅地と偽って販売するケースもあるのでご注意ください。市街化調整区域はさまざまな制限があるため、他の土地よりも安価になりますが、宅地と偽って販売すれば、本来の市場価値以上の利益が得られるようです。騙されて購入してしまった買主は、建物を建てられない土地を高額で購入したことになるため、大きな損失を被ります。

一方、市街化調整区域の土地を相続して売却する立場の人は、自分が加害者にならないように注意を払わなければなりません。土地を売るときは、不動産会社と仲介契約を結ぶことがほとんどなので、業者選びはとても大切です。誤って悪質業者を選んでしまえば、トラブルの渦中に巻き込まれることになります。売却活動を任せきりにしないことも大切です。常に確認する意識を持つようにしてください。

過去にも似た詐欺が横行(原野詐欺)

前述の事例に類似した詐欺として、1970~1980年代に問題となった原野詐欺(原野商法)があります。原野詐欺とは値上がりの見込みがない山林や原野を不当に買わせる詐欺のことです。「開発計画が進んでいる」「新幹線や高速道路ができる予定がある」「公共事業の計画がある」など虚偽の情報により、将来高値で売れると思わせる手法です。当然ながら、このような行為は詐欺に該当し、実際に逮捕された事例も多くあります。

いまも続く原野詐欺の二次被害にご注意!

この原野商法の被害者や、その相続人が再度トラブルに巻き込まれる「原野商法の二次被害」が、いまも全国レベルで発生しています。最初は「原野を売ってあげましょうか」という甘い言葉で近づき、調査費や測量費などの名目で金銭を要求してきます。また最近では「下取り型」と呼ばれる新手の事例も発生していて、原野売却時の税金対策のため他の土地の購入を勧めてきます。いずれも、お金を支払った直後から業者と連絡が取れなくなり、その時にようやく自分が騙されたことに気づくのです。お金を取り戻すことは非常に難しいです。

【参考:原野商法の二次被害トラブルにご注意ください!(国土交通省)

【03】横浜市面積の約1/4が市街化調整区域

横浜市の面積436.5k㎡のうち、約1/4の99.1k㎡が「市街化調整区域」です。都市化が進んでいるイメージの強い横浜市ですが、実際には高い割合で市街化調整区域があることに驚かされます。だからこそ、土地を購入または相続するときは、立地や値段だけではく、区域もしっかり調べることが大切になってきます。
ちなみに、横浜市内の市街化調整区域の詳細位置は、横浜市が提供するサービス「i-マッピー」で確認することができます。横浜市の全体地図も下に掲載しておきますのでその分布もご確認ください。

【参考:i-マッピー(横浜市行政地図情報提供システム)

i-マッピーの画面

横浜市内の市街化調整区域の分布図


【出典: 市街化調整区域での建築にご注意を!(横浜市のWEBサイトより)

【04】市街化調整区域でも家を建てられるケース

原則、建物を建てることができない「市街化調整区域」でも、下記のような特例処置があります。

①ディベロッパーが開発許可を取得した土地
市街化調整区域であっても、開発業者(ディベロッパー)が開発した分譲住宅地などは、すでに開発業者が開発許可を得ているので、家を建てることができます。
例えば横浜市の場合は、(旧)「住宅地造成事業に関する法律」による認可を受け、工事が完了した区域であれば、市街化調整区域でも建物を建てることができます。

【参考:(旧)「住宅地造成事業に関する法律」による認可を受けた区域内において行う開発行為の特例措置(横浜市のWEBサイトより)


②開発許可が不要な建物
農林漁業を営む人が住む家なら「市街化調整区域」でも建てられます。例えば、「農家住宅」などがこれに該当します。
横浜市内に農地を実際に所有している農業を営む人の場合、「農業の用に供する建築物又は農業を営む者の居住の用に供する建築物の建築に係る取扱い」(都市計画法第 29 条第1項第2号)によって、市街化調整区域で建物を建てることが認められています。ただし、農業の用に供する建築物であっても「農業用倉庫」は適用されないので注意しましょう。

【参考:農業の用に供する建築物又は農業を営む者の居住の用に供する建築物の建築に係る取扱い(横浜市のWEBサイトより)

【05】市街化調整区域の土地を売る方法

市街化調整区域の土地は、用途が限定されているため普通の土地よりも売却が困難ではありますが、どうしても売却しなければならないときは、下記の3つの方法が考えられます。

①専門の仲介業者へ依頼
市街化調整区域の物件を専門で扱う不動産仲介会社があります。買い手がつきにくく、市場価格が低くなりがちで、通常の不動産仲介会社では扱いにくい市街化調整区域の土地でも、実績と経験の豊富な専門仲介業者へ依頼すれば、上手く売却できる場合があります。

②農業関係者へ売却
市街化調整区域は、農地や自然を守るために定められた土地なので、農業関係者への売却であればスムーズに進む可能性が高いでしょう。

③農地を転用して売却
農地を農地以外の土地にすることができれば、市街化調整区域であっても建物を建てられるので売却しやすくなります。しかし、市街化調整区域の農地を転用するには、都道府知事の許可を得なればなりません。もちろん、転用が許可されないケースもあります。手続きも複雑なので事前に行政書士などの専門家へ相談することをおすすめします。

まとめ

今回の記事を読んで、市街化調整区域が結構身近にあることを知り、驚かれた人もいると思います。この区域の土地を相続予定の人は、活用するか売却するか早いうちに決めて、売却する場合は実績と信頼がある不動産会社と仲介契約することが、もっとも現実的な対処方法だと思います。

 

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