不動産関連のコラム

相続不動産を売却するときのリスク⑤ ─ 火災と不動産

火災があった不動産を売却するときは、買主へその事故歴を告知しなければなりません。時効はないので、ずっと「瑕疵物件(かしぶっけん)」というレッテルを貼られ続けることになります。更地にしても、建て直しても、相続で所有者が変わってもその取り扱いは変わりません。
今回は、事故歴がある不動産のリスクについて解説します。

【01】火災にあった不動産を相続するときの注意点

火災にあった不動産はどんな瑕疵が該当する?

火災を経験した物件は、たとえ損傷個所が修復済みであっても、基本的に「瑕疵物件」として扱われます。「瑕疵(かし)」とは、本来備わっていなければならない品質、性能、機能、状態が欠けていることをいいます。瑕疵には「心理的瑕疵」「物理的瑕疵」「法律的瑕疵」の3種類があり、それぞれ以下のような特徴があります。

  • 物理的瑕疵
    建物や土地に物理的な欠陥がある状態です。たとえば雨漏り、シロアリ、耐震強度の不足、土壌汚染などがこれに該当します。ぼや火災があった家をリフォームで表面的に修復しても、家の躯体(構造体部分)などに損傷が残っていれば「物理的瑕疵」に該当します。
  • 心理的瑕疵
    物理的な欠陥はないが、事故や周囲環境などによって、購入者にとって心理的な抵抗がある物件がこれに該当します。たとえば自殺や殺人があった物件、近隣に暴力団事務所がある物件、火災事故があった物件などがこれに該当します。
    火災の損傷が残る物件は物理的瑕疵に該当しますが、すでに修復済みの物件の場合は「心理的瑕疵物件」として扱われ、物件売買のときは売主に対して告知義務があります。詳細は後述します。
  • 法律的瑕疵
    法律上問題がある物件のことです。たとえば建築基準法に違反している物件、登記されていない物件などがこれに該当します。
    例えば、道に2m以上接していない旗竿地や、接道自体の幅員が4m以上ないなど、火災時に消防車や緊急車両が入ってこれない物件は、一般的に「法律的瑕疵」に該当します。


軽微な火災でも告知事項にあたります

過去に火災事故があった物件を売却または賃貸するときに「告知義務」が生じます。賃貸の場合は概ね3年間の告知義務があり、売却の場合は時効がありません。相続で所有者が変わっても告知義務は付いてまわります。

火災の規模がボヤ程度の軽微なものだったとしても、原則として告知義務はあります。損傷部分を完全に修復して、住宅の性能に全く問題がなくなれば「物理的瑕疵」はなくなります。ただ、火事があったことを周辺住民は覚えているもので、売却や賃貸をするときに隠し通せるものではありません。「火災があった住宅」というレッテルは買い手を遠ざける要因になり、それが「心理的瑕疵」として残ることになります。

火災の規模が軽微であれば資産価値を著しく低下させることはありませんが、「死者が出るような火災」「ニュースで報道されるような大規模な火災」が起きた場合は、買い手への心理的な影響が大きいため、資産価値も大きく低下するものと考えておきましょう。

瑕疵物件であることを告知すれば、買主を見つけるのが難しくなり、売却価格を下げざるを得ないなど、売主にとって不利な展開になるでしょう。しかし、告知義務をせずに売却すると、将来買主から損害賠償を請求されるおそれがあるため、「わからないだろうから告知しない」などという考えは決して持ってはいけません。

火事被害の大きさについて4段階に分類

焼損割合(※1)と分類定義
全焼焼損割合が70%以上。又はこれ未満であっても残存部分に補修を加えて再使用できないもの
半焼焼損割合が20%以上のもので「全焼」に該当しないもの。
部分焼焼損割合が20%未満のもので「ぼや」に該当しないもの。
ぼや(小火)焼損割合が10%未満であり焼損床面積が1㎡未満。又は収用物のみ焼損したもの。

(※1) ここでいう焼損割合とは、火災前の評価額を100%としたときの「焼損部分の損害損害額」の割合のことです。
【出典:令和3年版 消防白書 第1章災害の現況と課題 第1節火災予防(総務省消防庁より)


自然災害の被害も告知事項

台風や地震といった自然災害の被害に合った場合も、原則として告知をしなければなりません。
大規模な台風や地震の場合、建物が倒壊したり浸水したりする可能性があり、修復に時間と費用がかかります。特に浸水被害があった場合、外観上では気づかない損傷や、カビ・シロアリの発生といった二次被害を招くこともあります。物件売却後にこうした被害が発生すると、買主から損害賠償を請求されるリスクがあるので必ず申告してください。

もし相続不動産を売却するときは、過去に火災や自然災害の被害にあってないかどうかを必ず確認してください。

【02】更地にしても告知義務は残る

火災の損傷が大きい場合、焼け残った建物を解体して更地にすることになると思います。更地にしてしまえば、火災にあった建物が無くなるので、火災を告知する必要はないと考える人もいるでしょう。しかし法律上は、火災が起きて建物が焼失した場合でも、あるいは完全焼失しなかった建物を解体して更地にした場合でも、いずれにおいても告知義務はしっかりと守らなければなりません。

たとえ更地の状態であっても、前述した軽微な火災のケースと同様、火災があった場所として周辺住民の記憶に残り、悪い印象を持たれる可能性があるためです。

【03】瑕疵が隠れていないか確認が重要

火災で損傷した物件は修復すれば、心理的瑕疵は残るものの、物理的瑕疵は回避できます。
しかし、自分ではすべて修復したつもりでも、損傷箇所が後から発見されるケースもあるため、売却するときには、隠れた瑕疵がないか慎重に確認しなければなりません。もし売却後に瑕疵が見つかった場合、契約不適合責任を問われ、売主に修繕義務が生じる可能性があります。

なお、民法では買主が修繕や損害賠償を請求できる期間は「買主が瑕疵を発見してから1年以内」と規定されていますが、瑕疵を発見する期間の定めがないため、この規定をそのまま適用すると、売主にとって重い負担となります。

民法では「権利を行使できる時から10年間行使しないとき」は、権利が消滅すると規定されていますが、10年間というと売主にとって非常に長い期間です。そこで売主・買主合意のもと契約上で期間についての特約を結ぶのが一般的です。ただし、宅建業法で責任義務期間を「物件の引渡し日から2年以上」とすることが定められているため、引渡し日から2年未満とする特例を結ぶことはできません。そのため、不動産会社による売買では、瑕疵担保責任の期間を引き渡しから2年間とする特例を定めて、売買契約を結ぶケースが多くなっています。

まとめ

火災は、その規模が小さなものであったとしても、資産価値に大きな影響を及ぼすことがあります。建物の修復費用のほか、「火災があった物件」として扱われてしまうので、売却や賃貸を検討する場合は大きな影響が残ります。

不動産売却においては、正当な告知義務を果たすことが重要であり、瑕疵の有無は事前に確認されるべきポイントです。もし瑕疵を隠して売却した場合、契約不適合責任を問われる可能性があるので、必ず説明するようにしてください。

特に親や親族から不動産を相続する場合、過去の事故履歴を把握せずに相続してしまうことがあるで気を付けましょう。前の所有者のときに火災や自然災害に見舞われたことがないか、事前に確認しておくことをおすすめします。

 

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