相続関連のコラム

検証!あなたの不動産相続 ─ 準備編

今回は、実際に不動産相続に不安のある人からお話を聞いて、相続発生前の準備内容について実例検証します。団塊世代のご夫婦とそのお子さん2人(既に独立)という、最もよくあるパターンでのご相談内容でしたので、多くの人に参考になると思います。

それでは早速、相談内容と家族構成からみていきましょう。

  1. ご相談内容は、築40年過ぎのご実家についてです。木造戸建、土地付、ローン完済
  2. ご両親は健在で、ご実家で元気に暮らしています。
  3. 長男さんと長女さんがいらして、それぞれ独立して別居。
  4. 今回のご相談はこの長女さんからのもので、今やるべきこと、準備しておくことを知りたいとのことです。

ネットでも調べられそうな内容ではありますが、巷に情報が溢れすぎていて、どれが自分に当てはまるのか分からなくなっているとも仰っていました。自分の取るべき行動を、もっと簡潔に知りたいとのことで、今回ご相談をいただいた次第です。
なるほど、情報過多になっている現代人らしいお悩みです。

【STEP1】遺言書をご両親が元気なうちに準備する理由

相談者のご両親は健在なので、相続なんてまだ先の事と考えていたようですが、相続で大変な思いをされた人の話を聞いて急に心配になったとのことです。親が認知症になって生前に相続の話が出来なかったことや、成年後見人による横領、そして親族間の争いへ発展したことなど、生々しい話だったようです。

遺言書や相続の話し合いに早すぎることはない!

仲の良い家族でも、義理の兄弟姉妹やその親族が参戦して、相続トラブルに発展することもあります。「うちはトラブルになるほど遺産がないから大丈夫」という人もいますが、実は相続トラブルにおいて、遺産の額はあまり関係がなく、一般的なご家庭でも相続関連のトラブルは頻繁に起こっています。
「まだ早い」「両親が生きている間に財産分与の話をするのは気がひける」と感じる人もいますが、相続発生後の「トラブル」が結構多いです。だから、ご両親(被相続人)が元気なうちに話し合うことはとても重要です。円満な相続ができるように準備することをお勧めします。


法定相続分

遺書があればそれに則って遺産を分けますが、無い場合は、財産を分割する際の目安として「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」が法律で定められています。
相談者のケースを法定相続分に照らし合わせてみましょう。ご両親のどちらかが亡くなられた場合、相続人は「配偶者」と「長男」「長女」の計3人です。この場合の法定相続分は、財産の1/2を配偶者、長男・長女のそれぞれに1/4ずつとなります。
ただし、この法定相続分はあくまで目安なので、相続人全員が納得できているのであれば、どのような割合でも大丈夫です。



不動産は分割しにくい財産

不動産は分割しにくい財産のひとつです。実家を売却して、その売却益を相続分与する「換価分割(かんかぶんかつ)」という方法がシンプルで後腐れのない明瞭な分け方ではありますが、買い手がなくて空き家になることもありますし、その場合、誰が空き家を相続&管理するのか、管理費はだれが負担するのかなど、トラブルの火種が残ることがあります。
今回の相談者のお話では、ゆくゆくは長男さんが実家を引き継いで住む予定とのことなので、空き家問題は回避できそうです。ただ、後に兄妹間でトラブルが起こらないように財産分与をきっちりするのであれば、①分与が平等になるように不動産以外の財産で帳尻合わせるか、②不動産を相続する長男さんが長女さんへ一定の金銭を支払う「代償分割(だいしょうぶんかつ)」という方法があります。これらのことを事前に家族で話し合い、遺言書にも記せれば安心でしょう。


一時相続と二次相続

話を分かりやすくするために一般的なお話をします。年齢を考えるとはじめに父親、その後に亡くなる可能性が高いのは母親です。父親が死亡する時に発生するのが「一次相続」で、その後に母親の時に発生するのが「二次相続」といいます。
相続した不動産の名義変更についてですが、「一次相続」の時は配偶者(母)にすることが多いです。二次相続時の手間や相続税のことを考えると、子の名義にしておいた方が効率的なのかもしれませんが、そこは母親名義にしておきたいという心情が勝るケースが多いようです。

ただこの場合ですと、二次相続時には父親の時よりも相続人が1人減るわけですから相続税の非課税枠も少なくなります。また、二次相続時には「相続税の配偶者控除」も使えません。さらに、子供たちがみんな実家を出ていた場合には「小規模宅地等の特例」も使えませんので、二次相続時には相続税額が高額になる可能性があることを心得ておいてください。

※1)相続税の配偶者控除: 配偶者に対する相続税の優遇制度で、「法定相続分相当額」または「1億6,000万円」のどちらか多いほうの金額までの相続であれば、相続税がかからないというものです。「贈与税の配偶者控除」の方を利用した方がよい場合もあるのでケース毎に検討が必要です。

相談者の場合、二次相続の時に遺産総額が4,200万円を超えないなら相続税は掛かりませんので、上記の心配は無用です。二次相続は一次相続の時よりも法定相続人の数が少なくなる分(3人→ 2人)、基礎控除額も減るので(4,800万 → 4,200万)、その点ご注意いただければと思います。

【STEP2】生前贈与 ─ 節税対策

相談者のご家族のケースですと、一次相続の時は相続人が3人なので基礎控除額は4,800万円です(この計算方法は次章で解説します)。もし、それ以上の財産を所有している場合には相続税が発生するので、「生前贈与」を検討するのも良いでしょう。

暦年贈与

一般的な贈与には「暦年贈与(れきねんぞうよ)」があり、1年間に贈与された財産の合計金額が110万円以内であれば贈与税が掛かりません。そのため、生前贈与で最もポピュラーな方法として活用されています。
ただし注意点があり、生前贈与をしてから3年以内に相続が発生した場合には、その贈与はなかったものとみなされ、相続税の対象になります。そのため、暦年贈与はなるべく早くから始めておくことが大切です。

相続時精算課税制度

また、子どもや孫への贈与に「相続時精算課税制度(そうぞくじせいさんかぜいせいど)」も利用できます。この制度は、贈与するときは最大2,500万円まで贈与税は非課税ですが、贈与した人が亡くなるときに、贈与した財産を戻して相続税を計算する制度です。節税効果はありませんが、被相続人自身が生前中に、財産を渡したい人へ2,500万円までなら確実に渡すことが出来るというメリットがあります。
デメリットとしては、暦年贈与との併用はできず、相続時精算課税制度を利用すると2度と暦年贈与の110万円の非課税枠は使えなくなるので、制度を使うかどうかは慎重に判断しなければなりません。

【 参考:相続時精算課税の選択(国税庁)

【STEP3】相続税 ─ 基礎控除額を確認

相続税はどの家庭にもかかるわけではなく、被相続人が一定額以上の財産を所有している場合にのみ課税されます。一定額のラインを基礎控除額といい「3,000万円+600万円×法定相続人数」という算式で求められます。
たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合

3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円

この場合の基礎控除額は4,800万円となるので、それ以上の財産を所有している場合には相続税が発生します。反対に、財産額が4,800万円以下であれば相続税はかからない、ということです。相続財産が基礎控除額を超えることが明らかな場合には、事前に税理士や弁護士にご相談されることをおすすめします。

【STEP4】相続して実家に住む場合 ─ 補助金で耐震工事

相続した実家に住む場合、築年数が経過して旧耐震基準の建物の場合には、耐震リフォームが必要になるでしょう。平成7年に起こった阪神淡路大震災で亡くなった人の8割以上が、建物の倒壊による窒息死や圧死が原因といわれています。特に昭和56年5月31日以前の旧耐震基準で造られた木造住宅の被害が大きかったようです。

自治体によって、木造住宅の耐震診断の補助金や耐震改修工事費などに対して補助金を用意しているところもあるので、旧耐震基準の実家に住むのであれば補助金制度を活用することをおすすめします。


横浜市では、木造住宅耐震改修促進事業として、木造で造られた個人住宅の耐震改修工事費用の一部を市が補助する制度があります。対象となる住宅は以下のとおりです。

  • 昭和56年5月末日以前に建築確認を得て着工された2階建以下の在来軸組構法の木造個人住宅(自己所有で、自ら居住しているもの)
  • 上記の住宅で、耐震診断の結果、点数(上部構造評点等)が1.0未満と判定された住宅

該当する場合、耐震改修工事費用に対して世帯の課税区分に応じた補助を行います。

世帯の課税区分補助限度額
一般世帯100万円
非課税世帯
(※世帯全員が、過去2年間、住民税の課税を受けていない世帯)
140万円

【 参考:横浜市木造住宅耐震改修促進事業のご案内(横浜市のホームページ)


隣りの大和市でも「大和市木造住宅耐震改修工事費等補助金制度」という木造住宅の耐震補強工事を補助する制度があります。木造住宅を対象に簡易耐震診断を実施しており、建物の安全性を「安全」「一応安全」「やや危険」「倒壊の危険あり」の4段階で判定し、耐震性の目安を測ります。どのような耐震補強工事が必要なのか、建築士などの専門家による精密診断を受け、住宅や工事内容が該当すれば、耐震補強工事費の5分の1と工事監理費用等の2分の1の合計で、上限が50万円までの補助金が出される制度です。

【 参考:大和市木造住宅耐震改修工事費等補助金制度(大和市のホームページ)

他にも「木造住宅耐震診断費補助金制度」といって、古い木造住宅の耐震診断に最大6.6万円まで補助金の出る制度などもあります。

【 参考:木造住宅耐震診断費補助金制度(大和市のホームページ)


このように、各自治体によってさまざまな補助金支援制度があります。お住まいの役所に問い合わせるか、自治体のホームページで確認して、該当する制度があれば、しっかり活用していきましょう。
また、外壁塗装・給湯器交換などの修繕費や、被相続人が亡くなった日までに納税通知書が届いていた場合には固定資産税も必要経費に算入できます。

ただ、補助金制度を活用してもいくらか自己負担になると思うので、費用的な余裕がない場合は無理をせずに、売却も検討してみましょう。売却については次の章で解説します。

【STEP5】相続した実家を売却する場合

相続した実家に誰も住まないで空き家のまま放置しておいても、税金や維持費はかかり続けます。定期的な管理を怠ると自治体から「特定空き家」に指定されてしまい、固定資産税の軽減措置がなくなったり、空き家を強制的に取り壊されて費用を負担することにもなりかねません。
そういう状況になったときは、実家の売却も検討してみてください。不動産売却の手順について知りたい人は、下記の記事が参考になりますので一読ください。

【 参考:はじめての不動産売却 ─ 準備から売却後までの流れ

空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除

相続した空き家を売却するときには「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」といった制度があるので、活用しない手はありません。この制度は、被相続人の居住用家屋または敷地について一定の要件を満たした場合、譲渡所得の金額から3,000万円まで控除できる制度です。
空き家譲渡の特例は、共有で被相続人の居住用家屋または敷地を相続した場合も適用できます。たとえば、長男と長女の2人で持分50%ずつの共有で相続し、家屋を取り壊して6,000万円で売却したとします。この場合、長男・長女ともに3,000万円の控除を受けることができ、実質非課税となるので大きなメリットのある特例です。空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の適用要件について詳しく知りたい人は、以下の記事をご確認ください。

【 参考:【売りたい人】譲渡所得の3,000万円特別控除


これで、相続のための準備や基礎知識のご紹介は以上になりますが、次号では「相続が発生した時の具体的な対応方法」について解説しますので、併せてご覧ください。

次号「検証!あなたの不動産相続 ─ 実践編

 

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