不動産関連のコラム

いま住宅価格が急騰している理由 ─ 世界事情編

2020年下期以降、新築住宅の価格が急騰しています。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、日米金利差に起因する円高など、原因は複雑多岐です。それらの出来事は、輸送コストの高騰、資材不足、原油高騰、インフレへと連鎖していき、日本国内の新築住宅の価格を押し上げています。
日本国内については、次号の「国内事情編」に譲るとして、今回は住宅価格に大きな影響を及ぼしている世界の出来事について解説します。

【01】コロナ禍による住宅価格への影響

コロナ禍の影響で、物流遅延・輸送費高騰が起こり、輸入木材や住宅設備が不足し、価格も高騰して、住宅価格を押し上げるさまざまな出来事が発生しました。

輸送コスト高騰 (世界的なコンテナ不足・荷役労働者の不足)

2020年上期、世界ではロックダウンで自粛を強いられていた時期に、運輸業界では船便数や荷役労働者が減り、流通から外れた多くの空コンテナが輸送先や港で滞りました。
その一方、同年下期には欧米を中心に早くも日用品の需要が増えはじめました。時期的にクリスマス需要も重なり、中国から北米欧州への長距離航路(ロングホール)が急増します。まだ輸送体制が回復していない中での需要拡大です。案の定、2020年11月頃から世界レベルの深刻なコンテナ不足・輸送遅延に陥り、輸送コストが高騰しました。

定期船運賃市況


【 出典:China (Export) Containerized Freight Index (上図は日本郵船サイトより)】

ちなみに、長距離航路が増えた理由は、船会社の収益確保のためといわれています。中国からアジア諸国への短距離航路よりも長距離航路の方が収益性が高いためです。自ずと、アジア圏での空コンテナが非常に少なくなり、海外工場から日本へガス給湯器やトイレなどの住宅設備が入ってこないと騒がれはじめたのがこの時期です。
(※輸送費高騰は、2022年夏頃からようやく落ち着きの兆しを見せ始めています)


ウッドショック(木材不足と価格高騰)

北米の木材メーカーは、コロナ禍で製材所の休業を余儀なくされ、木材需要の低下を見越して生産規模を縮小しました。
しかし予想に反して、米国ではリフォームや郊外への住み替え需要が高まり、住宅着工戸数が急増します。リモートワークが普及した結果、人々の在宅時間が長くなり、巣ごもり需要が拡大したことがその理由です。
木材の争奪戦は米国内にとどまらず世界でも展開され、物流の混乱にも拍車がかかりました。木材の供給が需要に追いつかず、木材の価格はさらに上昇しました。これが世に言われる「ウッドショック」です。米国木材取引市場の動向の読み違えが、このウッドショックを招いたようです。
日本国内でも、2021年春ごろから急速に木材不足に陥り、木材価格が上昇しました。


投機にも利用された木材市場。ウッドショックに拍車

コロナ禍で落ち込んだ経済を下支えするために、米国バイデン政権は、一般家庭や企業に補助金や支援金を支出する莫大な財政出動を実施しました。
その資金の一部は木材取引市場にも流れ込み、木材を高値で買い付け、それをさらに高値で転売するという投機マネーが発生しました。これと同様の動きは中国でも起こり、それらがウッドショックを加速させたとも言われています。

【02】ロシアのウクライナ侵攻の影響(資材・住宅設備の高騰)

木材不足は少しずつ解消に向かい、2022年3月頃には価格も落ち着くだろうと予想されていた矢先の2月、ロシアがウクライナへ侵攻しました。欧米諸国を中心としたロシアへ経済制裁が発動され、ロシアはそれに対抗するように世界の国々へ木材などの資源輸出を停止すると発表しました。
世界の森林面積の約2割を占める森林大国ロシアは、これまで世界各国へ大量の丸太や製材を輸出してきました。今後は第2次ウッドショックが発生するのではないかと懸念されています。
日本では、ロシア材の輸入量は多くはありませんが(※)、世界市場の木材供給量が減少するため、巡り巡って日本に及ぶ波紋は小さくないと思います。木材だけではなく、鉄鋼などの資材も不足するため、住宅設備の値上がりは避けられないでしょう。

※ロシア産の製材・構造用集成材は、日本の製材用材消費量の5.7%、ロシア産の単板は日本の合板用材消費量の2.3%を占めています(林野庁の森林・林業白書より

<日本に影響が及ぶまでの流れ>
  • ロシアは、世界の森林面積の約2割を占める森林大国。エネルギー資源も豊富
  • ウクライナ侵攻後、欧米諸国を中心とした経済制裁
  • ロシアから世界各国への木材・鋼材・原油等の資源供給の減少
  • 原油価格の高騰に伴う輸送コストの上昇
  • 原材料の価格高騰に伴う製品価格の値上げ
  • 鉄筋・鉄骨などの鋼材の不足
  • 住宅設備(システムキッチンやユニットバス、トイレ、給湯器、照明)などに使用される鉄鉱石の不足と価格高騰。

ロシアのウクライナ侵攻により原油が高騰し、あらゆる商品の生産コストも上昇しています。この上昇は、最終的に販売価格で回収するほかなく、現在の世界的インフレの一因になっているのでしょう。

国産材で不足解消となるか!?

輸入材の価格が急騰したウッドショック以降、国産材の需要も高まっていますが、不足解消とまでは至っていません。その理由については、次号「国内事情編 ─ 国産材の需要も高まるが・・・」をご覧ください。日本の林業の諸事情について解説します。

【03】米国の金利上昇と急速な円安(輸入価格に影響)

コロナ禍による経済悪化から回復した米国は今、金利高とインフレの悪循環という、新たな問題に直面しています。インフレを抑制するために、金利を引き上げ、流通するお金を減らす政策がとられていますが、2022年11月現在においても、インフレの頂点(ピークアウト)がまだ見えない状態です。

一方、低金利政策を継続している日本との金利差は益々拡大して、急速な円安を招いています。今後の日銀の動きによっては、住宅ローンの金利にも大きく影響してくることでしょう。
詳細は次号「国内事情編 ─ 気になる住宅ローン金利の動向」を参照ください。


円安で中古住宅が売れてる!?

米金利が上昇すればドルの人気が高まり、金利の付く金融商品、例えば米国債などへの投資が増えます。結果的に為替市場では円安・ドル高へ傾きます。

今回の円安は日本国内のインフレ(物価高騰)に拍車をかけ、平均賃金の伸びが鈍くなっている日本国民の生活を徐々に圧迫しています。輸入住宅資材の価格もご多分に漏れず値上がりが進み、新築住宅も高騰しています。新築志向の強い日本で、中古住宅の需要が高まっているのはこのような背景があるからでしょう。


世界事情編はここで終わりですが、次号「国内事情編」で続きを解説します。中古住宅の需要拡大の理由についても解説してますので是非ご覧ください。

次号「いま住宅価格が急騰している理由 ─ 国内事情編

 

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